2011年11月4日金曜日

コア・カリキュラム 刑事訴訟法 第5編 証拠 第3章 伝聞証拠を発売いたしました!!

コア・カリキュラム 刑事訴訟法 第5編 証拠 第3章 伝聞証拠を発売いたしました!!

11月13日まで特価販売(700円)をしております。

伝聞証拠もかなり力を入れました。
とりわけ、伝聞・非伝聞の区別については、「要証事実」と「立証趣旨」の概念をわかりやすく、かつ、丁寧に説明しています。
これは「伝聞・非伝聞の区別が要証事実との関係で相対的に決せられる」という意味を適確に理解するための大前提になるからです。

ところが、現在普及している基本書には丁寧にこのことが解説されているものはほとんどありません。特に、学者が執筆した基本書は抽象論に終始するか、概念の説明すらないかといった類いのものが多いのです。
しかも、有斐閣アルマの刑訴法のように、「要証事実」を主要事実の意味で使いながら、伝聞・非伝聞の区別に関しては間接事実をも含む意味で説明しているものもあります。
これでは何が「要証事実」なのかわからず混乱してしまうのもやむをえないものといえます。

今日は、補強法則について話をしようと思いましたが、重要テーマである「要証事実」の意味について解説しておきます。

「要証事実」は多義的に使用されます。
上述のように、主要事実を意味するものとして使われることもあります。
主要事実とは、刑罰権を基礎づける実体法的事実を意味します。この事実を間接的に推認させる事実が間接事実です。
では、「要証事実」にはこの間接事実が含まれることはないのかというとそうではありません。

伝聞・非伝聞の区別は要証事実との関係で相対的に決せられます。
「相対的」とは、要証事実によって伝聞証拠になったり、非伝聞証拠になったりするということを意味します。
何故、「要証事実」によってこのように変わるのかという意味を適切に理解することが重要になりますが、ここで使われている「要証事実」は間接事実をも含む概念です。
それは、ここでの問題がその名の通り、「証明を要する事実」かどうかを意味する概念だからです(不要証事実に対する概念)。
このように「要証事実」は多義的な意味で使われます。

「証明を要する事実」は何か?これは証拠法総論の知識ですね。
一般に、「疑わしきは被告人の利益に」の原則から、犯罪事実の存在が裁判所の確信にまで達しない限り、被告人にとって利益に扱われます(刑事裁判における有罪の認定に当たっては、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要)。
つまり、真偽不明の場合は、被告人に無罪が言い渡されるわけです。
このことを挙証責任(証明責任・立証責任)の形で考えると、 検察官が犯罪事実の存在について挙証責任を負うということを意味します。
したがって、犯罪事実(刑罰権を基礎づける実体法的事実)について、検察官は証明を要するということになります。 
そこでは、主要事実だけではなく、間接事実も証明を要する場合もあります。
最近、出た最高裁判例でも間接事実のみから主要事実を推認することで犯罪の成否を判断できることを前提にしたものもあります(最判平成22年4月27日判タ1326号137頁。もっとも、本判決は破棄差戻しの事案)。
そこでは、以下のように判示されています。

「刑事裁判における有罪の認定に当たっては、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要であるところ、情況証拠によって事実認定をすべき場合であっても、直接証拠によって事実認定をする場合と比べて立証の程度に差があるわけではないが(最決平成19年10月16日刑集61巻7号677頁(以下「平成19年決定」)参照)、直接証拠がないのであるから、情況証拠によって認められる間接事実中に、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要する」。

間接証拠(間接事実を証明するのに用いる証拠)から主要事実を認定する場合、

間接証拠⇒間接事実⇒主要事実

という推認過程を経ます。したがって、そもそも間接事実に合理的な疑いがある場合に主要事実を合理的な疑いを差し挟む余地のない程度に確信することはできません。
また、これも当然のことですが、このような証明力の低い間接証拠がいくらあっても結論は変わりません。合理的な疑いのある事実がいくらあっても無意味だからです。

話を戻すと、ここで理解しなければいけないことは、間接事実によって主要事実を立証しようとする場合もあるということです。これは当たり前なことなのですが、その意味をきちんと関連づけることができていない方が多いのではないでしょうか?

繰り返しますが、伝聞・非伝聞かどうかは、「要証事実」との関係で相対的に決せられます。

典型例で説明すると、例えば、公衆の面前で「Yは詐欺師だ!」というYの名誉を毀損する発言をしたXを目撃した旨のAの証言の場合、そこで問題になった事件によって要証事実が変わります。
このAの目撃証言をXの名誉毀損の罪の証拠とする場合、Yが本当に詐欺師かどうかを立証するのではありませんね。ここではXがYに対する公衆の面前で名誉毀損行為を行ったということを証明しようとするわけです。
つまり、Xの発言それ自体が要証事実としてAの供述を証拠とする場合に当ります。
この場合、原供述者Xの発言内容の真実性(Yが詐欺をするような人間かどうか)は問題になりません。

ちなみに、この例におけるAの目撃証言は直接証拠になります。名誉毀損行為という主要事実を直接立証するための証拠だからです。

これに対して、Yの詐欺罪を立証するためにAの証言を証拠とする場合、Xが発言した「Yは詐欺師」ということが真実であることによって初めて証拠としての意味を見いだせます。
そこでなされたXの発言の中に具体的にYの詐欺行為に関する発言があれば、その真実性を前提にYの詐欺を立証することもできます。
しかし、真実性を前提にしなければならないということは、その発言をしたX本人に供述過程における誤り(知覚⇒記憶⇒表現、叙述)のチェックが必要であることを意味します。
したがって、そのチェックができないAの発言は、「公判廷外の供述を内容とする証拠で、供述内容の真実性を立証するためのもの」に当ります。したがって、この場合のAの供述は伝聞証拠ということになります。

このように、同じ発言でも問われる罪によって要証事実も変わってきて伝聞証拠に当るかどうかも変わってきます。

以上は直接事実が要証事実の例でしたが、間接事実が要証事実の場合もあります。
例えば、田宮先生の有名な例で考えると、AのBに対する「オレはアンドロメダの帝王だ」という発言を聞いていたCがAの発言を証言する場合、Aが本気で「オレはアンドロメダの帝王だ」と思い込んでいることから精神異常を推認する場合に当ります。
ちなみに、Aが何らかの犯罪の被告人である場合に、このようなCの証言はAの心神喪失・心神耗弱の立証に役立つことになります。
ここでの要証事実、つまり証明を要する事実はAがBに「俺はアンドロメダの帝王だ」と発言した事実それ自体です。
なお、Aがアンドロメダの帝王だということを立証する場合、その発言内容の真実性が問題になり伝聞証拠ということになりそうですが、そのような事実は犯罪事実とおよそ無関係ですのでこのような事実が要証事実となることはありません。

話を戻すと、AがBに発言した「オレはアンドロメダの帝王だ」という発言から精神異常を推認する場合の要証事実は間接事実です。
つまり、

AがBに発言した「オレはアンドロメダの帝王だ」という発言(間接事実)⇒Aの精神異常(主要事実)
 
という推認過程を経ます。
このように伝聞・非伝聞の区別において考える必要のある要証事実は主要事実の場合もあれば、間接事実の場合もあるのです。
もちろん、間接事実を要証事実と考える場合には、どのような意味があるのかを考える必要があります。およそ犯罪の立証と無関係の事実(Aがアンドロメダの帝王かどうか)ということを推認するための間接事実であれば、それは要証事実とならないからです。
したがって、例えば、言葉の存在自体を間接事実として用いる意味を考える必要があるということになります。
そこでは、犯罪事実の立証においてどのような意味があるのかといったことを考える必要があります。つまり、主要事実との関係でいかなる意味をもつのかということは考える必要があるということになります。この意味は上述の名誉毀損と詐欺の事案を比較すれば理解できます。
ただ、伝聞・非伝聞の区別は証明を要する事実、すなわち要証事実との関係で決せられるので、問題は証明しようとする事実が原供述者の内容の真実性を前提とするかどうかということを考えることになります。

要証事実との関係を吟味することの意味を適切に理解しなければ、伝聞・非伝聞の区別はできません。
要証事実が何か、そしてそれが要証事実となる意味を適切に把握するということが重要になります。
適切に要証事実を把握しなければ、およそその犯罪事実の立証とは無意味の事実を要証事実と考えてしまう過ちを冒してしまいかねません。

コア7ではそうならないように、要証事実の意義、立証趣旨の意義、両者の関係などについて、しっかり書きました。
なお、伝聞法則は証拠能力の問題です。
そして、伝聞証拠の原則排除は証拠の関連性の問題のうち、法律的関連性の問題です。
したがって、法律的関連性が認められても、自然的関連性が認められなければ、証拠能力は認められません。
例 えば、上述の例でいえば、AがBに「俺はアンドロメダの帝王だ」という発言を冗談で言っていた場合、Aの精神異常を合理的に推認することはできません。そ れは冗談で言ったものである以上、その証拠と主要事実との自然的関連性が欠けるためです。すなわち、冗談で言った発言である以上、およそAの精神異常を推 認する必要最小限度の証明力すら認められないということです。
コア7ではこの点についても触れています。
来年問われてもおかしくないテーマですので、苦手な人は是非、本書を参考にして下さい!

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