自白は訴因とならんでいつ司法試験で出題されてもおかしくないテーマです。
そこで、かなり力を入れました。
もちろん、自白についても判例実務の立場です。
自白法則は任意性説に立っています。
本書を読めば、虚偽排除説に対する批判は当たらないものだとわかるでしょう。
今日は、自白に関する論文試験対策について少し書きます。
現在の虚偽排除説は、虚偽の内容かどうかではなく、類型的に虚偽の自白を誘発するおそれの有無で不任意自白か否かを決すると考えられています。
つまり、類型的に虚偽自白を誘発するような自白をあらかじめ排除することで自白偏重の防止を図ると考えるわけです。
したがって、虚偽じゃない場合に虚偽排除説では自白を排除できない旨の批判は当たりません。
逆に、違法排除説は、違法収集証拠排除法則の“自白版”と考えながら、その違法の中身が全く不明欠くで、その判断基準も判例の採用する違法収集証拠排除法則と同じなのかどうかも明らかではありません。
違法収集証拠排除法則の“自白版”というのなら、理論的にその排除基準は違法の重大性と招来の違法捜査抑止の観点から決せられるべきともいえます。そうすると、それでは重大でない違法取調べにおける自白は排除されません。
しかし、軽微な違法取調べでもそれが類型的に虚偽自白を誘発するおそれがあるのなら不任意自白として証拠能力は否定されるべきでしょう。
仮に、違法の重大性を問題としないとする場合、違法収集証拠排除法則と違法排除説の関係が問題となります。違法排除説は、論理的に違法収集証拠排除法則における違法の重大性を問題としない理由が求められますが、説得的な理由は未だに提示されていないを言わざるを得ないでしょう。
しかも、明らかに条文の文言とかけ離れた解釈のため、もはや解釈論ではなく立法論に過ぎないとの批判もあります。
この点、現在の実務における任意性説は、 違法な取調べによって得られた自白は不任意自白の問題とすると同時に、違法収集証拠排除法則の適用をも肯定する二元説に立っています。
拷問、脅迫等の違法な取調べは往々にして虚偽自白を誘発するものですので、不任意自白と解される場合が多いです。この場合、自白法則によって証拠能力は否定されます。
ただし、だからといって、違法収集証拠排除法則の適用を否定する理由はありません。
その取調が重大な違法あり、招来の違法捜査抑止の観点からそこで得られた証拠(自白)の証拠能力を否定すべきという場面では、違法収集証拠排除法則によっても証拠能力は否定されます。
いずれも証拠能力を否定するという法的効果を有する点で共通であり、いずれも競合して適用を認めることになります。民法における不法行為責任と債務不履行責任の請求権競合に類似する関係といえます。
したがって、いずれも適用される場面ではいずれによっても証拠能力を否定することが認められます。
試験対策的には、違法な取調べで得られた自白が問題になる場合、答案構成としては次のパターンが考えられます。
- 取調の違法は重大な違法とまでいえないので、自白法則によって排除する
- 任意性は肯定されるので、違法収集証拠排除法則によって排除する
- いずれの適用によっても排除可能な場合
そのため、1および2は、初めに証拠排除できない場面を書いた上で、その後に排除可能な場合を書く方が論点落ちしないで無難だと思います(ただし、時間内に書ききれるように構成する必要がある)。
問題は3です。
通常、取調が重大な違法を伴う場合、往々にして任意性にも影響を与えます。
そのため、実質的に考えて2のパターンよりも3のパターンの方が出題される可能性は大きいかもしれません。
もっとも、善意の例外などが妥当しないか等を検討して、1のパターンに持っていけないかをまず検討すべきだと思います。
なぜなら、1のパターンが最も書きやすいからです。
2の場合、上述の通り、重大な違法を伴う取調べでありながら、自白の任意性が全く問題にならないようなケースはなかなか考えられません。
3の場合、いずれの適用も可能となると、他方のみで証拠排除可能になってしまい、もう一方を論じることがそれ自体蛇足になってしまいます。
このように考えると、まず1のパターンに持っていけないかを検討すべきでしょう。
もっとも、3のパターンも出題可能性が考えられますので、どうしても1で処理できないとなった場合、3で書かざるを得ない場合もあります。
その場合、まず初めに自白法則と違法収集証拠排除法則との関係について触れるべきでしょう。
もちろん、大展開する必要はありません。端的に、任意性説から違法収集証拠排除法則の適用を排除すべき理由はないとだけ示せば足ります。
もっとも、いずれを適用して証拠排除すべきかが次に問題となります。
この場合、重大な違法性と不任意自白のいずれが明白なのかによります。
要するに明白なものを論じるべきでしょう。
まず明文のある自白法則を適用すべきという見解もありますが、自白法則と違法収集証拠排除法則との関係が法条競合類似の関係にあるわけではないので説得的ではありません。
裁判例においても、明文ある自白法則で処理できる事例で違法収集証拠排除法則によって自白の証拠能力を否定したものも多く存在します(本書参照)。
自白法則を優先すべきという論者もこのような事例で、違法収集証拠排除法則を適用したからといって手続的瑕疵を有することになるとは考えていないはずです。
そうすると、そもそも適用順序を論じること自体無意味といえます。
いずれも同じ証拠能力を否定する理論に過ぎないのであり、いずれも適用できる場面ではいずれを適用してもよいと考えるべきでしょう。
そうすると、論文対策としては書きやすい方を書こうとなるはずです。民事上の請求権競合でも同様でしょう。認められやすい方を主張すべきです。
もちろん、1や2の場合、それでは自白法則と違法収集証拠排除法則との関係を論じることができなくなるので、これでは証拠排除できないとあいさつしておくべきでしょう。
もちろん、論文の書き方は事例によって変わってきます。ここではパターンとして書き方が色々あるということを知ってほしいという趣旨で3つの典型パターンを紹介しました。
とりわけ、本試験は書くべき量が膨大です。特に刑訴法においてそれが顕著です。
もっとも、違法取調べにおける自白について、特にコア・カリキュラムで指摘されている以上、そこで考えるべき特有の論点を頭の片隅に置いておくことが必要です。
そういった意味で、二元説の立場から典型処理パターンを本書で紹介しています。その一部は以下の通りです。
a
虚偽の排除で対応すべき類型
①
利益の約束による自白
②
偽計による取調べ
b
黙秘権侵害(人権侵害)を理由に排除の有無を検討すべき類型
①
手錠をかけたままの取調べ
②
糧食差入れの禁止
③
侮辱的・威迫的ないし追及的・理詰めの取調べ
④
病気中の取調べ
⑤
取調官以外の者が同席した取調べ
⑥
長期間・長時間ないし深夜・深更に及ぶ取調べ
⑦
宿泊を伴う取調べ
c
違法収集証拠の排除によるべき類型
①
違法な身柄拘束中に得られた自白
②
別件逮捕・勾留中の取調べ
③
黙秘権の侵害
④
弁護人の援助を受ける権利の侵害
⑤
起訴後の取調べ
⑥
調書作成上の不正・不備
注)a~cが競合する場合も考えられる。判断の順序は、明文規定のある任意性の判断を優先させる合理的理由はなく、先後の関係はないと解すべきである。
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コア・カリキュラム7法シリーズ 刑訴法 第5編 証拠 第2章 自白
次回は補強法則について書きたいと思います。
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